2006年1月1日号(第518 新春対談号)

地域の連帯が新しい時代をつくる

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市町村合併や地方分権が進み、国と地方のあり方が大きく変わろうとしている。地方が描くビジョンを実現し、地方自治を推進するための課題とその方向性は。魅力ある京都の発展のために住民や自治体職員に求められるものは何か。山田啓二京都府知事と木村幹雄府本部委員長に語り合ってもらった。(聞き手・谷口富士夫書記長)

町村合併の基本はまちづくりの夢を描き実現させること

谷口 まず、地方分権が進む中での国と地方のあり方についておうかがいします。

山田 京都は、これからの日本をリードしていく力を持っている。今、国は日本をリードしていく発想や全体を見る目が欠けていて、三位一体の問題にしても、地方分権を推進していかなければならない時に、霞が関の役人は、大義、目的を見ず、各省庁の横割りを見続けている。これでは日本全体の行政ができない。今は地域の方が全体を見る時代になってきたのではないか。だからこそ地方自治、地方分権の必要性を申し上げたい。

木村 地方課長と交渉した時も三位一体の厳しい話が出ていた。この間、国と地方との関係が大きく変わってきた。闘う知事会ができていると聞いている。

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山田 国と地方、どちらが全体を見ているか、住民のことを考えているかを考えた時、闘っていかざるをえない。高度成長の頃、国の税収が増えて「ふるさと創生一億円」のような事業をした結果、1千兆円の借金ができた。国としての主体性はどうなのか反省しなければならない。住民にとって本当に効果的な行政をやることが地方自治体の責務であり、地方分権の本質だと思う。

谷口 地域の明るい話題をどうぞ。

山田 この地域に住んでいる私たち一人ひとりが京都をつくっていくという気持ちに切り替えれば明るいことがいっぱいある。京都は世界に誇る伝統と文化、素晴らしいものづくりの技や豊かな自然があり、多くの人々に愛していただいている。これだけ底力があり魅力のある地域はほかにない。

木村 和歌山が高野・熊野古道で世界複合遺産に登録され、自治労和歌山県本部が県と一緒になって内外に宣伝しているが、京都の資産も国際的。自治労の海外からのゲストのほとんどは京都に来る。先日もシンガポールの労働組合が京都を視察した。

山田 京都の魅力をどう維持し、発展させていくかが大事。京都は名所旧跡だけでなく、STSフォーラムや京都文化会議のような国際的な会議が開かれ、多くの大学がある。北部には天の橋立、丹後の海、南に行けば「宇治茶」で有名な山城地域や学研都市がある。豊かさの影で失われつつある地域を愛し、守ろうという自治の心、連帯感がある。それが21世紀の地域をつくる基本になるのではないか。京都の人が改めて京都を、京都の良さを意識していくことが必要だと思う。

木村 歴史、文化、伝統工芸を持つ京都人には誇りがある。京都市では京都を国家財産として守ろうという「京都創生」の取り組みを推進し、商工会議所では「京都検定」が企画された。 山田 京都は資源と個性に恵まれた地域。地方公共団体で働く皆さんも、まずは自分たちの地域を見ること、それが地域自治ではないかと思う。

谷口 京都は南北に長く、北部も南部も合併によるまちづくりをめざすという構想があるが。

山田 京都は名神、新幹線が横に走り、横軸を中心に発展しているが、京都舞鶴港や京都縦貫道路などの縦軸を整備することで、ものが交差し活気のある地域になる。京都市は大津、宇治を含めて一つの文化圏を持っている。縦軸も横軸も同様に発展させることで京都市も発展すると思う。

木村 1989年に連合が発足し、翌年に自治労京都府本部を再建した当時は、「環日本海」つまり、日本海側の地域が日本の経済を支えると言われていた。舞鶴の発展、和田埠頭の整備など、これから大きな課題として進めていただきたい。

山田 今、中国は9%の経済成長が見込まれており、訪日観光ビザ発給対象地域は中国全土に拡大された。北京オリンピック、上海万博と、中国の勢いはとどまるところを知らない。環日本海時代はこれからだ。

木村 自治労京都府本部でも陝西省の公務員組合・機関工会と定期交流を行っており、今後も活発になるだろう。

山田 国と国との間に難しいことがある時、人と人との交流は大事。自治労の皆さんも、しっかり交流してください。

谷口 残念ながら北部は交通網が弱い。

山田 京都市から東京に行く方が丹後に行くよりはるかに近い。どれだけそこに住んでいる人たちが苦い思いをしてきたか、都会にいる人にはわからない。

京都の魅力をいかに発展させるのか-山田

お互いを思いやり尊重し合う社会に-木村

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木村 府内をまわると、まちづくりを一生懸命やっているところがある。これからの市町村合併をどういうビジョンでつくっていくかが大きな課題だ。自治体職員にとっても大事なこと。財政がたちゆかないからではなく、まちづくりの夢を実現させるためのものであってほしい。

山田 合併は手段であって目的ではない。地域としてのアンデンティティをしっかり持って、未来に対する構想を実施していくことが重要だ。京都府も同じ。現地・現場主義を徹底し、住民に一番近い市町村を、市町村のビジョンづくりを支援するということで、広域振興局を再編し、1300もの権限を移譲した。また、地域振興計画を地域の人たちや市町村とともに作成してもらったが、これも地域が自分たちの地域の未来像を描くことに結びついてほしいというのが狙いだった。

木村 地方分権を進めていく中で、大幅に権限が市町村に移ってきた。

山田 ほとんどが福祉。地域にあった力を発揮できるようにするという発想は正しいし、自治体が責任を持たなければならない。しかし福祉はある程度のスケールメリットを要求されるので財政問題として跳ね返ってくる。小さな自治体では住民の方々が行政の仕事を自分たちで分かちあう気持ちがないと自治体として保てない。これだけ権限が移っていく時、市町村の皆さんも考えざるをえない状況にきているということ。ところがこれまで市町村で担うべきとされていた生活保護や介護、医療は都道府県に戻そうという発想が出てきた。財政的な問題からというのは地域を無視した一貫性がない議論だ。

木村 介護でも単位自治体が基本と言いながら、広域での対応が当たり前になっている。

山田 シーリングの世界でしかものごとを考えられなくなっている。知事に就任した時、本当に何が必要なのかを考えるために、シーリング・配分行政を廃止した。職員が今まで以上に住民との対話を多くして住民に納得してもらう行政をやらなければならない時代になってきた。難しいが、従来のスタイルを変えなければいけない。

谷口 雇用問題について。京都の失業率は改善しているそうですが。

山田 2005年9月の有効求人倍率は全国平均を上回って14年ぶりに1.0に回復した。しかし、あまり実感がない。常用雇用が減り、団塊の世代が定年退職する2007年問題に対する不安感、さらには地域共同体の連帯感の喪失と地域力の低下など将来に対する不安もある。経済的にはるかに厳しい時代の方が自殺者数は少なかった。

木村 貧しいが助け合い、支え合ってきた時代から、豊かになったが助け合わない時代になってきたように思う。

山田 この問題は産業・社会構造の変化と結びついている。高度成長時代は農村共同体以来の伝統文化が生き残っていたが、農村から出てきて二代目、三代目になった今、共通の日本人文化や連帯感を持たない世代が出現した。しかし農村共同体の復活は難しい。そこで逆の発想を考えた。不安な状況を解決するために共同体意識をつくれないかと。つまり、治安が悪化しているから地域で手をつなぎましょう、皆で健康を守りましょう、皆で環境を大切にしましょう、皆で素晴らしい文化を大切にしましょう、というところから人の絆をもう一回つくっていこうということだ。

木村 府の施策として「人・間中心の5つのビジョン」を提案されている。労働組合も連帯なくして運動はありえない。

山田 最近、どこに行っても「絆、絆」という話をしている。役所は職員一人ひとりが府民や市民と絆をつくっていかないと地域の問題に対応できない。今、若年者のジョブカフェが成功しているので、昨年末に策定した新しい雇用計画では、団塊の世代対策に向けたシニア版をつくって、単にジョブだけではなく、生活者自身の問題として、農村との交流など、新しい結びつきを地域でつくっていくことができればと考えている。

谷口 新年にあたっての抱負をどうぞ。

山田 私たちが受け継いできた京都の良さをしっかりと皆で共有していくことが必要だ。さまざまな不安や問題が起きている今こそ、もう一回現状を考え直すチャンスが与えられたと思う。京都府内をくまなく回り、それぞれの地域にさまざまな思いがあることを知り、京都府という組織は府民から遠いと感じた。もっと職員一人ひとりが府民と接する機会を増やして住民や市町村の期待に応えられるようにし、府民本位の府政を推進していきたい。

木村 今、進行している「市町村合併」論議を契機として、明日に希望の持てるまちづくりの夢を一歩ずつでも実現させていきたい。「勝ち組」「負け組」などという言葉が流行する嫌な社会から、思いやりのある、お互いを尊重し合える地域社会を生み出せば、きっと少子化社会からも脱却できると思う。

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