新春対談 (2008年1月1日号)

反戦・平和の国際貢献を次世代へ

〜ビルマの民主化をめざして〜

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ビルマ日本事務所・マウンミンニョウさんを囲む・2008新年号座談会

はたらく者の団結、基本的人権の尊重、強制労働の禁止…私たち労働組合が何よりも大切にしている課題が、この地球上でふみにじられていることに黙ってはおけない。国際労働運動でも大きな問題となっているビルマ軍事独裁政権の人権抑圧・強制労働の強要などを停止させようと、私たち自治労も取り組みを進めてきた。新年号座談会として、日本で民主化運動を進めるビルマ日本事務所のマウンミンニョウ事務局長から、現地の状況と今後の課題を聞いた。

今は「嵐の前の静けさ」

谷口 あけましておめでとうございます。まず、衝撃的な日本人ジャーナリストの銃撃死亡事件の報道もありましたが、ビルマの現状をお聞かせください。

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ミンニョウ 現在ビルマでは、軍政が軍事国家をめざす憲法草案を作っていて、民主勢力は反対しています。経済も軍が全ての権利を握っていて国民は苦しんでいます。昨年9月に国民が大規模な抗議行動に立ち上がり、同時に、僧侶も立ち上がったのは特筆すべきです。国民約5000万人の9割が仏教徒で、そのうち約50万人の出家僧侶がいますが、今回、国民の苦境をみかねてデモを行ないました。軍はこれを弾圧したのです。現在、仏教界は鎮圧されたと考えられますが、実際は、国民はもう我慢の限界です。軍はもっと権力を握りたいと考えていますが、国際社会の反発も高まってきているので、今のビルマは嵐が来る前の静けさだと考えています。

国際労働運動でも課題に

谷口 ビルマの問題に対し、自治労本部では、どのような取り組みをされておられるのか、お教えください。

井ノ口 ILOの「ビルマの強制労働の禁止決議」をどう実現していくかが国際労働運動の一番の大きな問題になっています。軍事政権は、少数民族の人たちを徴用し、道路建設や軍のポーターとして使役しています。

このような強制労働を中止させると、軍事政権にとっては、非常に大きな痛手になります。

谷口 木村委員長はこの間カンボジアやベトナムを訪問されていますが、アジア全体の中でビルマ問題をどうとらえていますか。

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木村 率直に言ってビルマは、ネウィン政権についても社会主義のベールを被っていて、思考から少し外れていました。しかし、アウンサンスーチーさんの問題が出てきて初めて注目するようになりました。今回の日本人ジャーナリスト死亡事件でショックを受けています。

谷口 軍の中心であるビルマ族と少数民族との対立が伝えられていますが、現地では、内戦状態が続いていると考えてよいのでしょうか。

ミンニョウ 軍・ビルマ族は融和政策をとり始めていて、停戦協定を主だった少数民族と結び始めています。

これに対し、民主勢力の人たちは、今の政治体制では民主化は不可能で、ビルマ族も少数民族も共存した連邦政府を作ろうと考えています。軍についても皆が参加できる民主的な軍隊を作ろうと考えています。それが私たち民主勢力の考えているビルマ民主化の過程なのです。

木村 仏教界もビルマ族の出身の人たちが中心でしょうか。

ミンニョウ 仏教界では民族は関係なく、知識が豊富で試験に通れば偉いお坊さんになれます。私たちが作りたい連邦国家でも民族に関係なく、優秀な人が上に行ける制度を作らなくてはなりません。連邦国語の創設も課題になりつつあります。

少数民族ひとつだけでは軍事政権を倒せないし、多くの民族が共同して進めない限り、新しい民主化はできません。

日本のODAは結果的に軍政支援、労働組合は草の根支援で奮闘中

谷口 日本はビルマへの支援、国際貢献を続行中です。この点について考えをお聞かせください。

ミンニョウ 日本の支援は、軍政支援になってしまっていることをまずお話ししたい。日本はビルマに対して人道的支援のみを行なうと言っていますが、たとえばラングーン空港を作る事まで人道支援だとして国際社会からの批判を受けました。ビルマでは全て軍がお金を握っています。国際世論は軍政を無くすための支援をすべきだとの考えで、それが国民のためになるのです。

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井ノ口 労働組合としての国際貢献の内容は、国レベルとは少し違います。日本がODAで作った発電所が老朽化し、それの更新を行なおうとした日本政府は、それを人道支援だと言いましたが、それに伴って強制労働の懸念があり、2001年に僕がILOでこれを問題として取り上げました。労働側は凍結を主張し、現在も事業はストップしています。日本政府はかつてのようないい加減なことはできなくなりつつあります。

木村 ビルマは資源国だと聞いていますが、経済的な投資も問題になりますね。

ミンニョウ 天然ガス・石油が金額が大きくて目立ちます。ビルマでは軍事政権との合弁会社でないと経済活動ができません。結果的に投資は軍事政権を強化することに使われます。「投資も控えるべきではないか」という考えが現在の国際世論です。

井ノ口 ILOでは、労働側が、国名・会社名まで具体的に示し、この投資はやめるべきだと提起しています。

谷口 エファ・ジャパンや、私たち府本部の組合員有志が立ち上げた国際ボランティア組織「ボーン・ポォンの会」も含めて、ラオスやカンボジアなどの子どもたちへの国際貢献が進められていますが。

井ノ口 ビルマに関しては、国境近くのタイ国内にビルマ難民の子弟のための学校があり、そこでの教育に対し、自治労をはじめ連合傘下の七つの単産が支援しています。難民生活が長期化していて、タイで生きていくための職業訓練まで手がけていて、組合員も関心を持ってほしいと思います。

民主化でビルマに男女平等社会を取り戻したい

木村 国際世論に押される形で、日本政府の対応も変わらざるをえない情勢ですが、日本の政治についてご意見は。

ミンニョウ 国会にビルマの民主化を支援する議員連盟があります。ジャーナリスト、長井さんの事件に関して質問をしたり、外務省の副大臣と会い「日本の対応はアメとムチのアメばかりで、ムチも使ってください」と要請したりしました。しかし情報は官僚がブロックしていて、今回の事件などが報道されてはじめて大変な事態だと政治家が知るという実情は問題だと考えています。

谷口 アウンサンスーチーさんは永い間軟禁されている女性のリーダーですが、ビルマでの男女平等について、どのようなイメージがありますか。

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丹波 昨年の8月、ヨーロッパを訪れる機会がありましたが、かつてのドイツ独裁とビルマの独裁が似ていると感じました。ヨーロッパでは強制労働は改善されましたが、いまだに「女性は子どもを産んで育てるもので、働かなくてよい」との考えがないか気になります。

ミンニョウ ビルマでは大昔から、男女平等の考え方が伝統的です。教育面でも、ビルマは女性の識字率が世界1だと言われています。特に医学の場合、婦人科での女性医の率は世界でも類がない位高い。教員も8割が女性です。しかしこの伝統を壊したのが今の軍政です。軍人は男性ばかりで大事なポストに女性はいません。女性が重要なポストにつく機会が少なくなってしまっているのは残念です。

谷口 労働組合の中で、丹波さんはリーダーシップを発揮されてきました。いろいろとご苦労もおありだったと思いますが、お感じのところはありますか。

丹波 私の組合は学校給食の調理ということもあり、そこでは全て女性でした。6年前に職場に男性が入り、逆セクハラという問題があることもわかってきました。ビルマでも婦人科の女医さんが多いとお聞きしましたが、中国では、奥さんが留学したいと言えば1年でも2年でも行かせると聞きました。ビルマでもそうなのでしょうか。

ミンニョウ そういうことは結構あります。現に私の妻はアメリカに行っていて、もう1年半になります。

谷口 逆に男性が自立されているということですね。男女平等はまず、男性の意識を変えなければ。

2008年の抱負は…

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谷口 さて、最後に、今年の抱負をお聞かせください。

ミンニョウ 私の希望は何より、ビルマが一刻も早く民主化されて帰国することです。日本政府にも力を入れてもらって、皆さんにご支援いただくことも必要です。

井ノ口 ビルマの支援、小さいけれど続けてきて、この5年はすごい変化ですし、このチャンスの年にしっかり支援活動ができればと思います。京都府本部組合員のみなさんにも関心を持っていただきたい、自分たちの生活と深くかかわっている問題だということを知っていただきたい、と願っています。

木村 連合京都会長に就かせていただきましたが、労働組合運動のひとつのテーマであった反戦・平和の闘いが我々の世代で途切れてしまうのでは、という危機感を持っています。今年は、このビルマの問題をはじめ、反戦・平和の視点から見た国際貢献運動のあり方も次世代に引き継いでいけるような活動を進めたいと思います。

丹波 私の組合では昨年、エファ・ジャパンのイーデス・ハンソンさんに来ていただいて、国際貢献について学習しました。飽食の時代といわれます。しかし、もののない時代に生まれた労働組合、それも食べ物を作り出す側として学習を進め、結果として国際的な視点からの支援活動を取り組みました。私も今年で退職ですが、今日お聞きした話を活かして、男女平等な労働組合、社会に向けて頑張っていきたいと思いました。

谷口 ありがとうございました。

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