- 感染症ってなに?
- 種々の微生物が、本来、それらが存在しないヒトの体内の部位に入り、かつ増殖する状態を感染、症状が現れた状態を感染症といいます。
感染した微生物に対して、私たちの体は、免疫という抵抗力でこれらをなんとか排除しようとして反応しますが、なかなか排除できない時に、体内で増殖し、その結果、咳やクシャミ、発熱、下痢のような症状が現れます。これを発症といいます。発症までの期間を潜伏期といいます。
感染症の症状としてはいろいろありますが、例えば、発熱は侵入者を排除する免疫力を高めるためにおこり、下痢は消化器系に入った侵入者を排除するためにおこり、咳は呼吸器系の侵入者を排除しようとしておこるものです。これらは体が病原微生物に負けまいとして戦っている証拠ですが、その症状が強く現れる時体力の消耗を招きます。
感染は、自分自身の持っている微生物から感染する内因性感染と外部からの微生物により感染する外因性感染があります。 感染症は、伝染病(結核や赤痢のようにヒトからヒトへ伝染するもの)と、非伝染性感染症(膀胱炎や敗血症などのようにヒトからヒトへ感染することのない感染症)の2つに大別されます。また回虫・ジストマやトキソプラズマのように、かなり高等な生物による感染症は、寄生虫症として別に扱われます。
- どんな微生物に感染するの?
- 細菌、ウイルス、リケッチア、クラミジア、マイコプラズマ、真菌、原虫、寄生虫など。
これらを、感染微生物(病原微生物)といいます。
- 誰でも感染するの?
- 病原微生物の数が増えて病原性が強くなったり、もともと病原性が非常に強い場合は誰でも感染してしまいます。これには、感染微生物の毒力が関係しています。毒力によって強毒微生物と弱毒微生物に分類されます。強毒微生物の代表はペスト菌、チフス菌などです。
- 日和見感染ってなに?
- 別名内因性感染といい、病原性がとても弱く、健康であれば感染することがない平素は無害な菌に感染し発症することです。この場合の菌を弱毒微生物といい、感染防御能低下症例のみに感染症をひきおこします。コアグラ−ゼ陰性ブドウ球菌、や緑膿菌などがあります。
- キャリアーってなに?
- 感染しても発症しない場合があり、これを保菌、その人を保菌者(キャリアー)といいます。
保菌者は感染したことに気づいていないため、菌をばらまく感染源になることがしばしばあります。
- どうして感染するの?
- 感染のための3条件があります。
感染症は (1)感染源 (2)感染経路 (3)感染しやすいヒト
以上の3つがそろったときにおこります。
- 感染源ってなに?
- 患者・保菌者・感染動物・媒介動物・病原体を含んだ排泄物や、それによって汚染されたものなどを感染源といいます。 ヒトに感染する微生物はきわめて多数あります。もっとも多いのは細菌であり、次に多いのはウイルスです。このほか真菌、原虫およびスピロヘーター、クラミジア、マイコプラズマなど無数に存在しています。
- 感染経路ってなに?
- 感染源から直接または間接に、病原体がヒトの体に侵入する道筋を感染経路といいます。また感染する病原微生物が手やものが汚染することによって伝わっていく道筋を伝播経路といいます。感染経路と伝播経路はっきり区別しておらず同じように使われています。
病原菌の感染経路を知っておくことは重要であり、この感染経路を遮断すれば感染を防止することができます。
経口感染 (食事性伝染)
一般的には、汚染された食物、飲料などを経口的に摂取することから感染する場合。
病原性大腸菌、腸チフス、赤痢、コレラなど。
飛まつ感染 (経気道感染または空気感染)
細菌やウイルスが空気中に飛び散って、鼻や口から侵入する場合。
結核、インフルエンザなど。 経皮感染および経粘膜感染 (接触感染)
皮膚面、粘膜面、ことに皮膚粘膜の損傷のある部分から病原体が侵入する場合。
破傷風や淋病、梅毒、エイズなど。
血液媒介型感染および医療行為による感染
血液中のウイルスやスピロヘーターが輸血や注射器、直接接触等により粘膜や傷口から侵入する場合
B型またはC型肝炎、梅毒、エイズなど。
その他の感染
他の生物の体を一旦通し、人体に感染を起こす場合。蚊、シラミ、ノミなどはもちろん、イヌ、ネコなども媒介体となります。
マラリアの場合のハラマダ蚊、発疹チフスの場合のシラミなど。
- どんなヒトが感染するの?
- 感染しやすいヒトです。糖尿病などの慢性疾患のヒト、手術後のヒト、幼児、高齢者など抵抗力のないヒトが感染しやすいのです。病原微生物の数が増えて病原性が強くなったり、もともと病原性が非常に強い場合は誰でも感染してしまいます。
»感染経路(別図) »病原微生物の人体への侵入(別図)
- 感染は予防できるの?
- できます。第1に感染源をなくすこと、第2に感染経路を遮断すること、第3に防御力を高めること。感染源や感染経路は、ヒト、すなわち生物である場合と、環境・物品である非生物の場合があります。環境・物品は無菌にできますが、生物は無菌にできないので、さまざまな試みが必要です。
また、自分自身が持っている微生物を除去する場合と、外部からの微生物の侵入を防ぐ方法があります。
具体的には次のとおりです。
1.
手洗いとうがい
2.
清掃
3.
器具・器材の扱い
4.
洗濯
5.
消毒薬
- なぜ手を洗わなきゃいけないの?
- きれいに見える手にも、菌はたくさんついています。常在菌がいますし、時には感染症を引き起こす病原微生物がついていることもあります。これらが手でふれたものに伝わっていき、手は病原微生物のたいへん重要な伝播経路となります。
手を洗うと病原微生物は汚れといっしょに洗い流され、さらに手指を消毒するとその数はもっと減ります。つまり、手洗いは手にある病原微生物を増やさない(除く)また、手からものまたは他の人へ移さないためにおこないます。
- どんなときに手を洗えばいいの?
- 活動(訪問)の前後や、介護の前後には必ずおこなってください。とくに、褥瘡や創傷などの処置の前後や、血液のついたもの、排泄物の処理(おむつ交換)など明らかに汚染源と思われるものに触れる前後は必要です。
また施設等に外部から訪問される方には、施設の出入りの際やトイレの前後、食事の前などに手洗いをしてもらうことも必要です。
- 手を洗うときの注意点は?
- 指輪、時計などをはずし、爪はあらかじめ切っておきましょう。
一度洗った手で、顔や髪をさわらないようにしましょう。
タオルの共用は避けましょう。使い捨てのペーパータオルを使い、水分をしっかりとります。
水栓はペーパータオルを当てて閉め、ペーパータオルは所定の容器に捨てます。できれば自動水栓が望ましい。
- 手の正しい洗い方を教えて!
- 液体せっけんを十分に泡立てて洗い、流水ですすぎます。
1.
石鹸を使い、流水で少なくとも20秒以上、できれば2分間くらい洗います。
2.
手のひら、甲、爪、指の間を意識してしっかり洗います。
»手の洗い方(別図)
- なぜうがいをしなきゃいけないの?
- 病原微生物は手指だけでなく鼻や口にも存在し、咳やクシャミでヒトや周囲を汚染することがあります。傷などのない皮膚からは、病原微生物はなかなか侵入することは出来ませんが、口や鼻、のどの粘膜は侵入しやすく、気道や消化官などに通じているので感染経路となることがあります。
定期的にうがいをすれば、微生物の定着を防ぎのどの粘膜に付着した病原微生物を洗い流せます。うがいは手洗いと同じように感染を防止するうで非常に大切な手段です。
- うがいのときの注意点は?
- うがい液を口に含み、上を向いて背筋を伸ばしゴロゴロとうがいをします。
- 清掃はどのようにするの?
- 感染症予防のための清掃は、単に住み心地をよくするだけではなく感染源を除くことになります。従って、その目的は、
有害な細菌など微生物そのものを除去する。
微生物が増殖するための栄養源となる汚れを減らす。
という2つに集約できます。
消毒薬を使用する前に、日常の一般的な清掃を確実にすることが大切です。 また、施設であれば、区域分け(ゾーニング)と区域別の清掃をおこなってください。 維持しなければならない清潔の度合いによって区域分けをし、それぞれに応じた維持管理が必要です。病院の清浄度によるゾーニングに沿って区分けをするとおおむね次のとおり。
汚染区域
トイレ、洗濯室、汚物処理室、リネン室
一般区域
玄関フロア、デイルーム、談話室、講習室、スタッフ室、エレベーター、換気・空調装置
準清潔区域
浴室、静養室、医務健康相談室、機能回復室
上壁天井の掃除も忘れずに。これらは、家庭にも応用できます。
- 器具・器材の扱いはどうするの?
- 医療用器具を取り扱いについて、清潔必要度が高・中・低の3つのレベルにわけて予防対策をします。
高度
通常無菌的な組織または血管内に挿入されるもの、あるいは、内部を血液が通る器具、器材。心カテーテル、体内留置物など。←使用前に滅菌されていることが条件
中度
正常な粘膜との接触はあるが、体表面より内部には挿入されない器具、器材。尿道留置カテーテル、吸引器、管栄養チューブなど。←十分に清浄し、滅菌・消毒
低度
ふつうは患者と接触しないもの、あるいは、傷などのない健常な皮膚とのみ接触する器具、器材。松葉杖、尿器などの一般的な介護用具など←通常の洗浄剤による洗浄で可
- 洗濯はどのようにするの?
- 基本的には、洗濯用洗剤により通常の洗濯を行い、芯まで確実に乾燥させます。確実に乾燥させると、細菌数を低下させることができます。逆に乾燥が不十分な場合、かえって細菌数を増やすことになります。
乾燥は天日干しで十分に乾かないときや日干しよりは、衣類乾燥機を用いるのが望まれます。
汚れた衣類などは、あらかじめ水洗いし、排泄物を取り除きます。汚れの落ちにくいリネン類の洗濯は、やや濃いめの洗剤液をバケツに入れ使用済みのものを浸け置きし、そのまま洗濯機に移し、塩素系漂白剤を加え10分程度おいてから、標準コースで選択する方法があります。または、通常の洗濯を行った後に消毒薬に浸し、脱水、乾燥させる方法もあります。
洗濯後の洗濯機は、内部を水で洗い流しておきましょう。
- 消毒はどのようにするの?
- 消毒薬の過剰使用は避けましょう。一定量使用しても効果は変わらず、経費の無駄のみならず排水が環境に悪影響を及ぼします。
消毒薬は有機物が存在すると浸透が妨げられ作用が低下します。消毒前に徹底的に洗浄し、有機物を取り除く必要があります。
消毒効果をあげるためには、適切な濃度・時間・温度を保つことが大切です。
- 経口感染の防止法は?
- 経口感染の直接の感染源は糞便などの排泄物、吐物です。排泄ケアの際には手袋の着用と手洗いを徹底してください。特に排泄物に触れた後、食事や食物に触れる前には手洗いを。
また、幼児や痴ほう高齢者などは直接の糞口感染に注意が必要です。
介助者の手指、着衣、要介護者の汚染した手指から周囲の環境汚染にも注意が必要です。
要介護者自身が、便、尿、リネンなど細菌汚染の恐れのあるものに触れる時には手袋着用。
便器等は病原微生物に応じた消毒を。可能なら、個人専用が望ましい。
共同トイレの場合は、便座カバー、ドアノブなどを介しての汚染拡大に注意。
排泄介助、リネン交換などで着衣が汚染される恐れがある時はガウン着用が望ましい。
リネン、着衣が汚染されたらすぐに交換を。汚染リネンはランドリーバックに入れる。
- 接触感染の防止法は?
- 接触感染は厳密には直接接触感染と間接接触感染に分類されます。
直接接触感染
介護するときに感染する(体位変換、清拭時など)(排泄物との接触:排泄物を処理するとき)
間接接触感染
汚染されたものに触れたために感染する(体温計、包帯、手袋、リネン類など)
汚染された環境に触れたために感染する(床、テーブルなど)
要介護者の生活範囲をできるかぎり限定することが望ましい。そのことによって、感染経路が遮断されます。介護をする場合は手袋・ガウン(エプロン)を着用。前後の手洗いを厳重に。体温計なども個人専用が望ましい。
- 経気感染の防止法は?
- 気道には上気道(鼻腔、口腔、咽頭、扁桃、喉頭)と下気道(気管、気管支、肺、胸腔)があります。上気道は経気道感染のバリアーの役割を持っています。
気道感染の感染経路は
風邪症候群(主にウイルス)→上気道の粘膜損傷→微生物の定着→感染症→下気道へ波及→全身汚染
感染症状は
上気道感染
喉、鼻の痛み、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、発熱、頭痛、全身倦怠感など
下気道感染
咳、痰(血痰、膿性痰)、呼吸苦、胸痛、チアノーゼなど
[予防対策]
日常ケア(うがい、歯磨き、手洗い、マスクの使用など)により、微生物の侵入を防止することが効果的。
- 主な感染症早見表
-
病原性微生物 |
感染症 |
感染源・感染経路 |
グラム陽性菌 |
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) |
日和見感染、院内感染 |
常在菌 |
結核菌 |
結核 |
飛まつ感染 |
グラム陰性菌 |
病原性大腸菌 |
O157 |
経口感染(常在菌) |
緑膿菌 |
日和見感染、院内感染 |
常在菌 |
ペスト菌 |
ペスト |
ネズミなどによる咬傷、飛まつ感染 |
腸炎ビブリオ |
食中毒 |
経口感染(魚介類) |
嫌気性菌 |
ボツリヌス菌 |
食中毒 |
経口感染(肉や魚など) |
真菌(かびなどの微生物) |
皮膚糸状菌 |
足白癬 |
接触感染(床、じゅうたん、スリッパ、サンダルなど) |
カンジダ |
口腔カンジダ症、外陰、膣カンジダ症 |
医療行為による感染(血管内留置カテーテルなど) |
クラミジア(細菌) |
クラミジア |
肺炎、気管支炎など |
経気道的に感染(主に鳥から) |
リケッチア(細菌) |
ダニなどを宿主とする |
恙虫病、日本紅斑熱 |
ダニの刺し口から感染 |
スピロヘータ |
梅毒トレポネ−マ |
梅毒 |
多くは接触感染(性的接触)、母子感染 |
ウイルス |
肝炎ウイルス |
A型肝炎 |
経口感染(汚染された飲食物) |
B型肝炎、C型肝炎 |
血液媒介型感染および医療行為
による感染(多くは輸血)、B型
肝炎は性的接触、母子感染も |
インフルエンザウイルス |
インフルエンザ |
飛まつ感染 |
ヒト免疫不全ウイルス |
エイズ |
接触感染(性的接触)、血液媒介型感染および医療行為による感染、母子感染 |
ダニ・昆虫 |
ヒゼンダニ |
疥癬症 |
接触感染 |
チリダニ |
ダニアレルギー症 |
接触感染 |
《参考文献》
小林寛伊:感染対策ハンドブック
京都市中央老人福祉センター:ホームヘルパーのための感染症マニュアル
大阪市社会福祉協議会保健指導員会:通所型老人福祉施設における感染症予防のマニュアル